「かけまくもかしこき日不見の神よ」祝詞の考察。音や掛詞を重視する神道の意味|すずめの戸締まり

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2022年11月11日に公開された、新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」

今作には、日本神話や神道、民俗学から発想を得た設定が沢山登場します。

特に今作は戸締まりの際に草太が唱える呪文のような「かけまくもかしこき日不見の神よー」が印象的ですよね。

以下が、戸締まりをする際の草太のセリフです。

かけまくもかしこき日不見(ひみず)の神よ。
遠つ御祖の産土よ
久しく拝領つかまつったこの山河
かしこみかしこみ、んでお返し申す。


かけまくもかしこきひみずのかみよ。
とおつみおやのうぶすなよ。
ひさしくはいりょうつかまつったこのやまかわ、
かしこみかしこみ、つつしんでおかえしもうす。

この祝詞の中の「日不見の神」について、筆者が調べた限りでは日本神話や神道に日不見の神が出てくるものはありませんでした。

日不見の神が何を示すのか、考察していきたいと思います。

この記事は、小説版と劇場版の「すずめの戸締まり」のネタバレが含まれますのでご注意ください。

※日本神話や神道については、筆者が調べた内容を要約して掲載していますので、解釈違いや情報の間違いなどあればご指摘ください。

目次

すずめの戸締まり|祝詞(かけまくもかしこき日不見の神よ―)の意味とは?

引用元:「すずめの戸締まり」公式サイト

祝詞の現代語訳

草太が戸締まりの際に唱える「かけまくもかしこき日不見の神よ―」

草太が戸締まりの際に叫んでいるのは「祝詞(のりと)」で、神道で神に対して唱える言葉です。

▼草太が唱えているのは下記の文言です。

かけまくもかしこき日不見ひみずの神よ。
とお御祖みおや産土うぶすなよ。
久しく拝領はいりょうつかまつったこの山河やまかわ
かしこみかしこみ、つつんでお返し申す。

※追記【新海誠監督の答え】祝詞の現代語訳

新海誠監督が舞台挨拶で、このセリフの現代語訳について語っていました。

「草太さんが扉を閉じる時のセリフの現代語訳は?」という質問には、新海監督が「元ネタは特にないんですけど、いわゆる祝詞について簡単に調べた上で自分で作った言葉」と回答。

「『かけまくしもかしこき』は『何度も言ったけど』で、『ヒミズの神』はひとつは”火と水”という世界の全て、さらに『日が見えない』で日不見、地下にいるミミズのことを表して、イコール大地そのものですよね。大地そのものに呼びかけています」と解説する。

マイナビニュース

続けて「『遠つ御祖の産土よ』の『産土』も土地そのものなので、ともに僕達の先祖、土地そのものに呼びかけ、『久しく拝領つかまつったこの山河』からは、ずっと人間が通って住んでいたこの土地を謹んでお返し申す、と。

人がいなくなってしまったので、僕達はこの場所にいることができません。あなたたちにお返しします。そのことで大地に鎮まってくださいと言っているというイメージです」と語った。

マイナビニュース
  • 『かけまくしもかしこき』
    『何度も言ったけど』
  • 『ヒミズの神』
    →”火と水”という世界の全て
    →『日が見えない』で日不見
    →地下にいるミミズのことを表す


    イコール大地そのもの
  • 『遠つ御祖の産土よ』
    僕達の先祖、土地そのものに呼びかけている
  • 『久しく拝領つかまつったこの山河』

    →ずっと人間が通って住んでいたこの土地を謹んでお返し申す。
    →人がいなくなってしまったので、僕達はこの場所にいることができません。あなたたちにお返しします。そのことで大地に鎮まってください。

以下に続くのは監督の舞台挨拶前に筆者が記載した考察が続きます。

当たっていた部分や違うところもありますが、もしよろしければどうぞ。

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現代語訳すると、大体下記のような意味になります。

声に出して言うのも畏れ多い、日不見/ヒミズの神よ。
先祖代々の土地の神よ。
長い間借りていたこの山や河を
(最大限に畏れ敬い)恐れ多くも、謹んでお返しいたします。

ここで注目したいのは、「日不見/ヒミズ」が何を指しているのか。

別記事でも記載していましたが、より深く調べて行くと、下記の3つが関係しているのではないかという考えに辿り着きました。

  1. ヒミズモグラの神→ミミズの天敵であるモグラ
  2. 日を見ない存在→ミミズそのものを表す
  3. 日不見の神→火水の神
  4. 日不見ひふみ→「ひふみ祝詞」

詳しく説明していきます。

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「日不見の神」(かけまくもかしこきーに出てくる)の意味とは?

前述した「日不見の神」の意味①②③④について、解説していきます。

①「ヒミズモグラの神」に、ミミズを今後も鎮めておいてくれと祈っている。

ヒミズ(モグラ)とは?

ヒミズ(日不見、日見ず)

真無盲腸目モグラ科に分類される哺乳類。
食性は雑食性で、昆虫類、クモ、ムカデ、ミミズなどの小型土壌動物や植物の種子や果実を食べる。

参考:wikipedia

ヒミズは、ミミズの天敵であるモグラです。

今作では、「善くないもの」を具現化した「ミミズ」が登場します。
劇中に出てくる「ミミズ」についても、考察してみます。

ミミズについての考察

引用元:「すずめの戸締まり」公式サイト

土中に住む私達が良く知るあのミミズは、土を食べて植物を育てるのに適した土壌を作る「益虫」として、農業などでは利用されています。

土中に住むミミズと同じように、常人には見えない劇中の「ミミズ」も、後ろ戸の向こうにある「常世」を住処にして、その土地に生まれた「善くないもの」を吸収してくれる無くてはならない存在として上手く共存しているのだと考えます。

その上の地上に人間が住み着き、八百万の神を敬う神道の祈りなどで大地と上手く折り合っていたのでしょう。

しかし、各地域で人が少なくなって、土地を鎮める「人の心の重さ」や「人々の土地への祈り」が弱くなった土地では、後ろ戸を閉めておく力も同時に弱まってしまったのかもしれません。

目的も意志も持たないミミズは、開いた後ろ戸から出てきてしまい「現世」に地震という災いをもたらすことになると考えます。

「風の谷のナウシカ」における「腐海(ふかい)」と「王蟲(おうむ)」の関係と、少し似ているかもしれません。

ヒミズとミミズ

そんな災いをもたらす「ミミズ」を鎮めてくれるように、ミミズを食べる「ヒミズモグラ」の神にお願いする。

日不見ひみずの神よ」という祝詞には、「ヒミズモグラの神」という意味が込められているではと考えます。

日を見ない存在→ミミズそのものを表している

「日不見」は日を見ない=ミミズ

ずっと地中にいて目のないミミズは「日不見」とも言えそうです。

  • 「日不見/ヒミズの神」
  • 「産土(うぶすな)=土地の神様」

これらは全てミミズのことを表しているのかもしれません。

▼この説で祝詞を考察した記事はこちら
>>すずめの戸締まり呪文セリフ「—かしこみかしこみお返し申す」意味と全文の解説

③日不見の神=火水の神

「神」の語源には諸説あるようですが、古神道の文献に「神は火水なり」という記載があるそうです。

古神道における「神=火水」とは?

古神道では『火(カ) 水(ミ)』とも読めることもあって、「神さまは、火と水だ」と信じて伝えられていたとのこと。

は、太陽・光・天を表す。
は、大地・海を表す。

全ての生きとし生けるものは、天地の恵みを頂いて生かされているということを、この一言で表していると言われています。

その森羅万象の源である「神=火水(カミ)」を

「火水=ヒミズ」と読み、
ヒミズ日不見」とモグラの意味を持つ漢字を当てて2つの意味を持たせ、

日不見の神よ=森羅万象、全ての命の源である神よ」と呼び掛けているのだと考えました。

別記事でも「本来のその土地の持ち主である産土の前に呼びかける日不見の神は、きっと重要な神様なのではないか」という主旨の考えを書きましたが、その正体が「森羅万象、全ての命の源である神」なのであれば納得ができます。

参考:【境内案内2】 神は火水なり

日不見ひふみ→「ひふみ祝詞」

また調べていて興味深い関係が浮かんできたのが「ひふみ祝詞」の存在です。

「あいうえお」や「いろはにほへと」のように、「ひ・ふ・み」から始まる47文字から構成されている「ひふみ祝詞」

今作の祝詞との関係を説明していきます。

「ひふみ祝詞」とは?

「ひふみ祝詞」とは?

ひふみ祝詞は古代から奏上されてきた「言霊の力が宿る祝詞」です。

一音一音に言霊が込められおり、厄災が幸福に転換される「除災招福」のご利益があると伝えられています。

※「清音47音をそれぞれ1回だけ使って作られたアナグラムになっている「唱えるだけで強い浄化と奇跡を呼ぶ効果がある」など、とても興味深い解説もあるのですが、今回は割愛します。気になる方は是非調べてみてください。

▼ひふみ祝詞の動画

今作「すずめの戸締まり」と「ひふみ祝詞」の関連性は、下記3点です。

  1. 日不見=ひふみと読める
  2. 「ひふみ祝詞」が鎮魂法で使われる祝詞である
  3. ひふみ祝詞」の起源が「アメノウズメノミコト」に関係する

順番に解説していきますね。

ひふみ祝詞」と「すずめの戸締まり」の関連性

日不見=ひふみと読める

これは読んでそのままですが「日不見の神」日不見が「ひふみ」と読めるという点です。

神道では「音に言霊が宿る」ものとして、同じ音を違う漢字に変換して1つの言葉に様々な意味を見出していく傾向(掛詞)があるようです。

前述した「神は火水なり」もそうですよね。
音や掛詞を大切にする「神道」にちなんで、「日不見」と「ひふみ祝詞」を関連づけているのではないかと考えます。

また「ひふみ祝詞」の現代語訳には様々な説がありますが、序文の「ひふみよい」の意味は、

  • ひ=光、太陽光があり、太陽が生まれた
  • ふ=風風が吹いた
  • み=水水が世界を包み、海が生まれた
  • よ=命、世こうして世界が誕生した
  • い=出現そして、原始的な生命出現した

という「森羅万象の誕生」を表しているという説が一般的です。

前述した「火水の神」と同じく日不見の神よ=森羅万象、全ての命の源である神よ」と呼び掛けているのだと感じています。

「ひふみ祝詞」が鎮魂法で使われる祝詞である

「ひふみ祝詞」鎮魂法で使われる祝詞として知られています。

鎮魂(ちんこん)法とは?

鎮魂法とは、古神道で今でも最も重要とされている行法の1つ。

自らの霊魂を振い起こし、神の「気」を招き鎮めることで、自らの霊魂を安定・充実させ、その霊性や霊能を十分に発揮させる神道独自の行法のこと。

参考:西野神社 社務日誌

一般には全身に冷水を浴びる禊(ミソギ)の儀式が有名ですが、禊と共に、神道では代表的な行法の1つに位置付けられているとのこと。

新海監督が来場者特典である「新海本」で

“場所を鎮める、場所を悼む物語にしたいというアイデアがあった”

と答えているように、今作の重要なテーマの1つが「鎮魂」です。

ここにも共通点を感じます。

ひふみ祝詞」の起源が「アメノウズメノミコト」に関係する

「これ絶対関係あるでしょ!」と確信したのは、

ひふみ祝詞」を誕生させたのは「アメノウズメノミコト」だったという事実。

アメノウズメノミコト(天鈿女命)」とは、日本神話に出てくる女神。

今作のヒロイン「岩戸鈴芽(すずめ)」の名前は、アメノウズメノミコトから連想したと新海監督が明かしています。

アメノウズメノミコト(天鈿女命)」とは?

「アメノウズメノミコト(天鈿女命)」は「岩戸隠れ」の神話で有名な芸能の女神であり、日本最古の踊り子です。

出典:Pinterest

【岩戸隠れ】

太陽の女神である「アマテラス」が、弟であるスサノオの暴挙に怒り、天の岩屋戸に隠れてしまいました。
太陽の神であるアマテラスが隠れてしまうと、天地は真っ暗になり、悪霊が飛び交いました。

困り果てた八百万の神は相談して、アマテラスの気を惹く祭りを岩屋戸の前で行いました。その時に舞い踊ったのが「アメノウズメノミコト」です。

大喜びの歓声に「外は真っ暗闇のはずなのに、何をそんなに騒いでいるのか」と不思議に思った「アマテラス」が外へ様子を見に出てきたところを引っ張り出し、作戦は成功。
天地は再び太陽に照らされることとなりました。

アマテラスが隠れていた「岩戸」「ウズメ→すずめ」「岩戸鈴芽(すずめ)」という名前が誕生しました。

また、芸能の神様として全国の神社で祀られている「アメノウズメノミコト」ですが、そのうちの1つである佐瑠女神社(猿田彦神社境内社)には、新海監督が幟旗を奉納されています。

出典:アメブロ「伊勢神宮 猿田彦神社」

2020年1月には奉納されていたようで、今作の企画書を書き始めたのも2020年頭くらいだったと新海監督は語っています。

今作が無事に完成することを祈って奉納された際に、名前のインスピレーションが浮かんだのかもしれませんね。

その他参考
ひふみ祝詞の全文の意味と現代語訳を解説|
ひふみ祝詞の効果や意味について知ろう!奇跡を起こす祝詞の唱え方について解説します
アマテラスと天岩屋戸伝説
神社に祀られている神様「第七回・アメノウズメ(芸能の女神)」

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「かけまくもかしこき日不見の神よ」祝詞の考察。音や掛詞を重視する神道の意味|すずめの戸締まり まとめ と あとがき

いろいろ調べた筆者の感想は、『日本文化、“奥深ぇ~~”』

しっかり設定して意味づけたことか、ただの偶然で筆者がこじつけ過ぎたのか、真相は分かりませんが、今現在の考えは以下の通りです。

筆者が考える日不見の神」の意味
  • ミミズの天敵であるヒミズモグラの神
  • 火水の神森羅万象、全ての命の源である神
  • 日不見ひふみ→「ひふみ祝詞」

引き続き、気づいたことがあれば加筆・修正していきたいと思います。

新海監督があえて東日本大震災を描く、重たくも力強いメッセージが込められた覚悟の一作。
東日本大震災から11年でこのテーマを扱った善し悪しは判断できる立場じゃないですが、相当の覚悟を感じます。

賛否両論さまざまな意見があるかと思いますが、やはり新海監督の真骨頂はその映像美。
地震描写に抵抗がない方は、是非劇場でご覧頂くことをお勧めします。

今回、筆者は小説を読んでから劇場に足を運んだのですが、情報量が多く、かつ日本神話や神道にまつわる要素が物語のカギになっているので、文字で読んでから映像を見たことで理解が早かったなと感じました。

また「小説版 すずめの戸締まり」には、2011年に起こった地震だとハッキリと記載しており、映画では詳しく描かれていない情報が多々あります。

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もう映画をご覧になった方、初見の感動は映像で!という方は、映画を見た後に小説を読むと知識が補完・整理されてより深く理解できると思います。
エピローグは、端的ではありますが小説の方が映画よりもしっかり説明があるので分かりやすく、しばらく余韻に浸ってしまいました。

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 読み応えがあり、色々と納得しました!
    一点、ブログ内の作品名が誤っておりましす。公式からも注意喚起がありました。
    ×「すずめの戸締り」
    ○「すずめの戸締まり」
    できれば修正ください。

    • ともや様

      コメントありがとうございます!
      作品名の誤り、大変失礼いたしました。
      修正いたしました。
      ご指摘頂き本当に助かりました。感謝いたします!

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