2018年に本屋大賞を史上最多得票数で受賞し、累計発行部数は現在160万部を突破する、辻村深月のベストセラー小説「かがみの孤城」
物語の終盤に向けて、謎や伏線が一気に回収されていくミステリー要素もふんだんに含まれています。
先日試写会で鑑賞したのですが、映画の尺に合わせるために原作から削った箇所があり、小説未読で映画だけを見た方には疑問が残る部分も多いんじゃないかなと感じました。
この記事は映画を鑑賞済みで小説未読の方に向けて、
- 登場人物の「スバル」のその後について分かる、名前(本名)に隠された謎や伏線
- 小説版に描かれているスバルとマサムネの友情エピソード
を解説していきます!
目次
"かがみの孤城 "のあらすじ
学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。
ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるようなお城と見ず知らずの中学生6人が。
さらに「オオカミさま」と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、
「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。
期限は約1年間。
戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。
互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。
そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めた頃、ある出来事が彼らを襲う――――
果たして鍵は見つかるのか?なぜこの7人が集められたのか?
それぞれが胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは?
全ての謎が明らかになるとき、想像を超える奇跡が待ち受ける―
「スバル」とはどんな人物?

中学3年生でどこか飄々として浮世離れした雰囲気の少年。
祖父母と暮らしている。家族と上手くいかず、人生どうでも良いと投げやりになっている節がある。
(小説では、兄の存在も描かれている)

映画版での声は板垣李光人さんが担当されています。
「スバル」の本名に隠された伏線
マサムネがゲームの話をしている時に、有名なゲームクリエイターの名前を出して、それをみんなが知らないという展開がありましたよね。
映画では非常にスピーディーに展開してしまったのであまり気に留めていない方も多いと思いますが、小説では下記のようなやり取りが描かれています。
「あん?知ってんだろ?『ゲートワールド』。今超売れてるプロフェッサー・ナガヒサのゲーム。まさか知らねえの?」
小説 かがみの孤城
「ナガヒサ……?」
スバルが怪訝そうに問い返す声に、マサムネが苛立ったように言う。
「ナガヒサ・ロクレンだよ! ゲーム会社ユニゾンの天才ディレクター」
「ナガヒサ・ロクレン」の名前に、スバルが反応しました。
それもそのはず、終盤まで全員のフルネームは明かされませんでしたが、スバルの本名は「長久 昴(ナガヒサ スバル)」と言います。
小説内ではこの「昴」という名前について、スバル自身がこのように説明しています。
父がくれたもので一番好きなのは、スバルというこの名前。
小説 かがみの孤城
昴。プレアデス星団。別名六連星。
おうし座の散開星団で、別名六連星(むつらぼしと読むのが一般的)、和名は昴(すばる)という。
自動車メーカー・SUBARUの名前の由来にもなっており、SUBARUのロゴマークにも「六連星」が描かれている。
- スバルの苗字は「長久(ナガヒサ)」
- 気に入っている自分の「昴」という名前は六連星(むつらぼし)を表し、その六連を音読みすると「ロクレン」になる
などの共通点が、「ナガヒサ・ロクレン」が自分と無関係に思えなかったのでしょう。
マサムネの影響でゲームに興味を持ち、将来を決めたスバル
マサムネが持ってきたゲームを一緒にプレイすることで興味を持ち、定時制の工業高校に進学することを決めたスバル。
城での最後の別れの時、鏡に戻るスバルはマサムネに「俺、なるわ。ゲームを作る人」と言っていましたね。
ナガヒサ・ロクレン、工業高校、マサムネへの言葉、これらを合わせて「スバルは大ヒットゲームを作るゲームクリエイターになったんだな」と分かりましたね。
これだけでも充分鳥肌が立つエピソードなのですが、小説には、このスバルの決心の裏にある「スバルとマサムネの友情」がしっかりと描かれていました。
多くの「かがみの孤城」小説読者が「感動した」「何度読み返しても涙が出る」と話す、とても重要なエピソードです。
小説に描かれていたスバルとマサムネの友情
他の6人がオオカミに食べられた後、墓標となった×印に触れたこころは、それぞれの記憶の断片を垣間見ます。
マサムネの記憶には、「このゲーム作ったの、俺の知り合い」と周囲に話したところ、嘘つきと言われて仲間外れにされており、それが不登校の原因になっていました。
映画では、学校の机に「ホラマサ」などと彫られている映像が流れましたね。
小説では、その事実を知ったスバルが、マサムネに対してこう伝えました。
スバルが身を起こす。そして続けた。
「さっきから、考えていたんだ。マサムネのいる2013年は、僕、四十三……、四十四歳?信じられないけど、結構いい年なんだなって。マサムネからみたら、おじさんだよね。つまり、大人」 スバルが笑う。笑って、「だから」と続ける。
「目指すよ。今から。゛ゲーム作る人゛。マサムネが『このゲーム作ったの、オレの友達』ってちゃんと言えるように」
小説 かがみの孤城 p523
「だから、目指せるものができるなら、すごく嬉しい。だから、意地でもそれくらいは覚えたまま、鏡の向こうに帰るよ。約束する。____だから、たとえ、僕やマサムネが忘れても、マサムネは嘘つきじゃない。ゲームを作ってる友達が、マサムネにはいるよ」
小説 かがみの孤城 p524
『このゲーム作ったの、オレの友達』というマサムネの言葉をウソにしないために、スバルは約束を果たして、大人気ゲーム「ゲートワールド」を作る超有名クリエイターになりました。
- マサムネを嘘つきにしないために、ゲームクリエイターになることを志した。
- 人生に対して投げやりだった自分に「目指すもの」を与えてくれたマサムネに対しての友情と感謝。
スバルとマサムネの友情が感じられて胸が熱くなりますね。
その他にも細かい伏線や謎が小説には沢山散りばめられているので、映画を見た後に小説版を読むとより理解が深まると思います。